映画館に限らず、あらゆる音の分野で関わってくる反射・吸音・拡散という言葉があります。
言葉のイメージからなんとなくどのようなものか想像がつく人も多いように思いますが、映画館の音の感想を見ていると勘違いしている人もいるようです。
今回はこの反射・吸音・拡散についてそれぞれ解説していきます。
あまり映画館初心者の方は気にする所ではないので、映画館についてもっと知りたい方はご覧いただければと思います。
解説の前に
音の説明について分かりやすくする為に簡略化しています。
今回は反射・吸音・拡散についてのみ焦点を合わせて解説する為、映画館における様々な要素は省いています。
実際には更に多くの複雑な要素があるのでご注意下さい。
反射について
反射はスピーカーから出た音を跳ね返します。
反射にしても跳ね返る角度によっても変わりますし、跳ね返す壁などの素材、表面の仕上げなどによっても変わってきます。
画像は極端な例でこんなにモロに真正面から強く跳ね返る反射はほとんどありません。
野球の試合などで応援団が太鼓を叩くとスコアボードに跳ね返った音が聞こえることがあります。
ドン!!・・・ドン!
というのは聞いた事がある人もあるかと思います。
コントロールされた反射があると音が活き活きとし、伸びやかさやスケール感などに大きく寄与します。
スピーカーなどから出る音が止まった後でも反射した音が空間に残り、余韻として残るものが残響です。
この反射と残響が効果的に活かされている場所がコンサートホールで、楽器の音色を美しく伸びやかに鳴らし、広大な空間に柔らかく残る残響音が演奏をより感動的な物へと昇華させてくれます。
コンサートも演奏する場所が重要視される理由がこれです。
適切にコントロールされた反射と残響は音において大きくプラスになりますが、極端すぎると明らかに反射した音がずれて聞こえる、音が極端に偏る、残響が強すぎて音が不鮮明になるといったマイナス要因も多く発生します。
吸音について
吸音は出た音を跳ね返さず、吸収して吸い込んでしまいます。
吸い込んでしまう為反射と大きく異なり、反射した音が影響を与える事が少なくなる事でスピーカーなど音源をストレートに聞く事が可能です。
画像のように出た音のエネルギーを吸い込んでしまいます。吸音が強くなるほど跳ね返るエネルギーは小さくなり、無響室のような環境であれば全く音が返って来なくなります。
今の映画館のほとんどはスピーカーから出た音をストレートに客席に届ける為、グラスウールが敷き詰められ吸音が効いた環境になっています。
映画館で吸音されているといっても完全に音を吸収しきっている訳ではなく、吸収しきれない音は跳ね返って空間に残ってしまいます。
特に吸収しにくい重低音の制動に関わる部分です。
日常的にイメージする事は少ないかもしれませんが、ショッピングモールや駅の通路など会話や歩行音などが騒がしくならない様天井や壁などに適切に設置されています。
吸音も強くなりすぎるとデメリットがあります。
吸音が強すぎると音の伸びやかさや細かな余韻なども失われてしまい、乾いた味気ない音になってしまいます。
無響室のような強い吸音の部屋は空気感も重たく、耳奥がじりじりとして変な感覚に陥る人もいるかもしれません。
拡散について
拡散はどちらかと言えば反射に近いですが極端に跳ね返すのではなく、細かく複雑に散らして自然に減衰させる事です。
拡散は音を柔らかく散らし伸びやかな音のまま自然に消えていく為、反射と吸音の良さを兼ね備えているとも言えます。
拡散させるための部材は様々でなんばパークスシネマのレンガ拡散材などが有名です。
吸音と反射の素材を合わせたものや木の丸棒を使ったものなどもあります。
拡散体と言えば日本音響エンジニアリングのAcoustic Grove Systemが有名です。
理想的に思える拡散ですが、拡散材は大がかりでコストがかかるものが多く、映画館で大々的に導入している所はあまりありません。
拡散材も適切な場所に設置しなければ正しい効果が得られないので設置には綿密にシミュレーションを行う必要もあります。
反射・吸音が強い映画館は個性が強い
反射面が多く、残響時間の長い映画館と言えばイオンシネマ海老名のスクリーン7やシネマシティのシネマツーなどが思い浮かびますが、非常に個性的な音を聞かせてくれるメリットと定位やセリフの甘さがどうしても出てきます。
吸音が極端に強い映画館となるとユナイテッドシネマ・シネプレックスのHDCSがあります。
HDCSは、過去記事でも紹介していますので、参考までにリンク張っておきます。
こちらは楔型吸音材が後壁に設置されている事で背面が無反射に近い状態です。
箱の空気感が重く、音も伸びずセリフがスクリーンに張り付いたような聞こえ方になりますが、強化された重低音の制動がしっかりと効く事と、重心が低い音になる事で独自の迫力を生み出しています。
後壁の楔型吸音材が存在感を放つHDCS。写真はシネプレックス幕張・シネマ9。
最終的にはバランスが重要
反射・吸音・拡散は音の聞こえ方に強く影響する要素です。
なんばパークスシネマの評価が高いのは箱の剛性と合わせて反射・吸音・拡散が適切に効いている事があるかもしれません。
音が伸び、低音の制動も聞いて定位もシャープな所に効果が表れているように思います。
映画館の場合無数のスピーカーから音が出力され、座席も複数あります。
なので単純に反射材を置いた、拡散材を置いた程度では付け焼刃に過ぎません。
実際に耳に入るのはこれらの要素がすべて絡んだ環境である為、入念に計算され、配置のシミュレーションまで行われます。
反射・吸音・拡散が非常に高いレベルで調和するとシャープで点のような定位、スピーカーと空間が調和したような自由自在で動きが目に見えるようなサラウンド、強烈に鳴ってもピタッと制動の効く重低音が体験出来ます。
しかしながらこれらには非常に費用がかかる上に見た目上の派手さや分かりやすさがない為、相当のこだわりがある映画館でもない限りここに力を入れることはあまりないでしょう。
また遮音性、箱の剛性、形状、空調などの静寂性も重要な要素になります。
加えてスピーカーの設置、適切な調整、運用、メンテナンスと様々な要素が合致した映画館は非常にクオリティが高いものになります。
まとめ
反射・・・音を跳ね返す。(音の伸びやかさなどに影響。)
吸音・・・音を吸い込む。(出音以外を吸い込んではっきり聞かせる。)
拡散・・・音を散らす。(音を散乱させて自然な耳当たりに。)
どれかが突出するのではなくそれぞれの調和が重要。
重要ではあるが映画館のクオリティを決める1つの要素と考えておく。
という感じになるかと思います。
箱の性能は見て分かるものもあれば分からないものもあり、後者がほとんどです。
あまり深く考えず、気楽に楽しむのがいいと思います。
箱について説明した過去記事がありますので、興味あればこちらもぜひご覧ください。
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