2005年6月1日にオープンしたMOVIX三郷が2024年11月30日、19年という映画館としては非常に短い期間で閉館となりました。 自分も利用することが多かった映画館でとても残念でなりません。
映画館としても、MOVIXとしても非常に重要な立ち位置として生まれたMOVIX三郷はどのような映画館だったのかを振り返り、なぜ閉館となったのか、最終上映はどうであったかを前編・中編・後編に分けて考えたいと思います。
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長い記事になるので要約記事はこちらに↓
MOVIXさいたまの姉妹館とも言えるもう1つのフラッグシップ館
MOVIXはMOVIX宇都宮でMOVIXオリジナル劇場規格を3つのシアターで打ち出し、続くMOVIX橋本でより進化した形で全シアターに採用します。そして旗艦劇場となるMOVIXさいたまでほぼ完成系となったMOVIXオリジナル劇場規格を全スクリーンに採用します。
MOVIX三郷はMOVIXさいたまのおよそ1年後のオープンとなりますが、非常にレベルの高い映画館となったMOVIXさいたまと同等以上の物が求められ、MOVIXオリジナル劇場規格もさらにグレードアップされて完成に至り、微妙な仕様の違いや個体差はあれどその後に生み出される事となるMOVIXの基準が確立された映画館と言えます。
面積を生かした大劇場にふさわしい広いロビー
自動扉の先には2階へ続く階段とエスカレーターがあります。階段の裏手にはエレベーターもあり、足が不自由な方でもすぐに上がる事が出来ます。
上るとMOVIXさいたまに次ぐ12シアター・2,523席にふさわしい広いロビーが出迎えます。
チケットカウンターも十分な数があり、その隣にストア、フード類を販売するリフレッシュメント、入場ゲートと連続して並んでいます。 構造的にもロビーを横断することなく裏ですべてが繋がっているのが分かる構造の為、スタッフの導線が確保され動きやすい造りです。
ロビー中央、ちょうどストアの反対側あたりにはおさきにNetの発券機があります。2階に入って進んだ先にあり、ポン置きではなく表記もあり分かりやすいです。
奥には広い待機スペース、その奥には十分な数のトイレがあります。
大劇場に見合うだけの充実した広さ、窓口、設備がそろっていますね。
スムーズな導線を実現した入場ゲートとコリドール
注目したいのが入場ゲートとシアターの並ぶコリドールです。
MOVIXさいたまでは劇場規模に対し入場ゲートが非常に小さく、複数の作品が同時会場したり上映後のお客が退場する際に激しい混雑となる事が多々あります。MOVIX三郷はゲートが広く確保されている上にバックヤード入口がゲートのすぐ裏にある為、応援のスタッフもスムーズに入ることが出来ます。
実際に自分が見た混雑時の対応の1つが右側が入場・左側が退場となりますが他の上映終了作品がない上で左側も入場として2列対応を行っていました。この臨時の左側入場も大きな利点があります。
シアター1は入場してすぐ左側、続くシアター2から5もすべて左側で統一されています。シアター4と5の間、入場して右側にシアター6から12があり、座席数の多い劇場を右に固める事で人の流れが作りやすい形になっています。自分が見た時はシアター1の入場を左から、シアター11の入場を右からしていたので入場後は人の導線が交差することなくシアターまで向かえる形になります。
シアター6から12までのコリドールの幅はMOVIXさいたまと同等程度の幅ですが、シアター2から5までのコリドールは広めになっており、退場時も混雑しにくい形になっています。
MOVIXさいたまは劇場規模に対してコリドールも狭く、入退場の際に足が止まることがままあったので非常に機能的な形になっていると言えます。
シアター入口はお客の歩いてくる方向に合わせて微妙に角度がついています。MOVIXさいたまも同様の角度がつけられており、シアターナンバーが見やすく、天井付近がごちゃごちゃしないのですっきり見えます。写真に残せていませんでしたが、反対側から見るとMOVIXの文字あたりにシアターのナンバーが表示されており、どちらの方向からでも認知出来る形になっています。
ハイクオリティなシアターの数々
前述したようにMOVIX三郷ではMOVIXオリジナル劇場規格によるハイグレードなシアターをそろえていました。ざっくりと特徴で分けて紹介したいと思います。
オープン時TADのスピーカーを導入した事で話題になったスタジオクオリティシアター
シアター1はMOVIX宇都宮、橋本、さいたまでも採用されて好評だったTAD(Technical Audio Device)、通称タッドを導入しています。メインスピーカーにTSC-3415が導入されており、伸びやかな高域とフラットな音質、精細な音像が特徴のシアターでした。
フィルム上映の時代は真っ白なバックで左上からくるくるとT A Dの文字が出てきてその横にTechnical Audio Deviceの文字がすぅ・・・と出てくるトレーラーがありました。無音で映像のみのものですが、今考えると貴重なものだったのだと思います。
TADのスピーカーが生産終了となり、後期はJBLのスピーカーに変更となりましたが、スタジオライクなサウンドと見やすいスクリーンが好まれ、映画館好きからの評価が高いスクリーンでした。
ちょうど入口の階段の上部分にあるシアターで他のシアターから独立している事もあり、ライブ音響上映の開催シアターにもなっていました。
高いクオリティで統一された小箱達
MOVIX三郷のシアター2、3、4は規模、座席配置が全て同一になっています。シアター5と7はやや座席数は少なくなりますが、シアター5は2、3、4とほぼ同規模のシアター、シアター7はやや小ぶりなサイズとなっています。
シアター2、3、4は座席配置や非常口位置、スクリーンサイズまですべて同じ3姉妹シアターと言える造りになっています。
シアター5と7はスロープが右側になっています。シアター5は間にトイレと通路を挟んだ独立したシアターになっており、アクション系作品や重低音が効いた作品が割り当てられている印象があります。
シアター7は若干スクリーンサイズが小さいですが、座席配置対比で見ると体感上そこまで差異は感じないくらいの大きさです。
MOVIX三郷の小箱は全てのスクリーンにおいて適切なスクリーンサイズと座席配置で作られているのが特徴です。建物の構造的な問題であったり、他のスクリーンを大きくする為のしわ寄せでスクリーンが遠くて小さく感じやすい所、逆に奥行きがなく、座席傾斜が急でスクリーンサイズが必要以上に大きい所、構造上シアター内に柱がせり出してしまっている所などがまれに見られますが、MOVIX三郷では最前列から最後列まで過不足なく、安心して見る事が出来ます。
MOVIX三郷の隠れた良シアターが揃う中箱
シアター6、8、9はシネスコスクリーンの中箱です。体感サイズの良さと中箱ならではのサウンドが魅力です。
写真からも分かるスクリーンの大きさが目を引くシアター6。シアター8とは4席差しかありませんがシ座席を横に広げ、最前列とスクリーンの距離を広く取る事で見やすさを確保しています。MOVIX三郷の中では断トツの体感サイズとなるシアターで、ここで見るスコープ作品は迫力満点です。
シアター6と4席差という事を考えるとやや小さめに感じるシアター8。ちょうど見具合のいい中箱と言った感じで縦横のバランスがよく、見やすさと大きさが両立しています。個人的には縮小して座席配列を変えたシアター1のような感覚です。
MOVIX三郷の最奥にひっそりと存在するシアター9。6、8、9の中では最もコンパクトでスクリーンもやや小さいですが、スコープ映像が余裕をもって視界に収まる見やすさがあります。ミニシアター的な雰囲気もあれば、小規模のスタジオのような空気感もあるシアターです。
どのシアターもよく似ていますが、画も音も個性が見えるのが楽しいですね。
変則スクリーンサイズの2つのシアター
中箱に相当するシアター10と大箱に相当するシアター12ですが、このシアターはビスタ映像は左右に余白、スコープ映像は上下に余白がでる変則サイズのスクリーンになっています。シアター11の両脇に位置するこの2つのシアター、建物の柱などの都合でこの幅となっているのだと思われますが、そんな中でも可能な限りスクリーンを大きくしようとした結果でしょうか。フィルム時代に入る事がなかったシアターですが、おそらく上部と左右が稼働するカーテン機構があったのではと予想出来ます。
やや縦に長い形のシアターになりますが体感上ビスタでもスコープでも映像が小さいと感じることはありませんでした。このタイプのスクリーンはビスタとスコープとで映像の大きさに体感上差を感じにくいのも利点の1つと言えると思います。
このスクリーン、クリストファー・ノーラン監督作品のテネットなどで度々話題になった1:2.20の映像が大体収まりそうなスクリーンに見えます。認知されていればMOVIX三郷のシアター10と12ならスクリーンいっぱいの映像が味わえるという口コミが広がる未来や結果もあったのかも知れません。
大型サラウンドスピーカーを設置したメインシアター
MOVIX三郷の最大席数となるシアター11。唯一の両側入場およびカーブドスクリーンのシアターです。姉妹館のMOVIXさいたまのメイン館・シアター12よりやや席数は多いですがスクリーンは若干小さくなっています。とは言えスクリーンは18mクラスの十分な特大幕ですし、さいたまシアター12よりもゆとりのある座席配置やスタジアム傾斜は映画の鑑賞を快適なものにしてくれます。
シアター11の最大の特徴はMOVIX初導入かつ以降のMOVIX系サイトのメイン館でSRX-715Fと合わせて標準となるJBLのAEシリーズ・AM6212/95をサラウンドスピーカーで採用した事です。
MOVIX宇都宮のシアター8ではサラウンドスピーカーでは定番であるJBLの8340aでは不足と考えたと思われ、通常設置されているスピーカーの上に上下逆転した同スピーカーを連結して駆動するスタック接続という手法を取りました。これによりカバーエリアの拡大とスピーカーの音圧向上を行っています。
MOVIXさいたまのシアター12でカスタムメイドスピーカーを導入する際は、サラウンドスピーカーはMOVIXさいたま専用のカスタムモデルとなりました。架台込みで1台辺り約100kgにも及ぶものであった為、大型のスピーカーを頑強に、安全にマウントする技術が求められ、それを具現化したシアターとなりました。
この技術が以降のMOVIXメイン館で継続して活かされるものになります。ベース部分は横幅はスピーカーのサイズが異なるので短くなっていますが基本的には同じ物になっています。カスタムサラウンドスピーカーほどではないにせよ、AM6212/95は38㎝ウーハーを搭載したスピーカー単体で約30㎏もあるスピーカーです。三郷シアター11にはなんと24台も設置されています。
広い空間を満たすサラウンドの音場と18m級の大スクリーンはMOVIX三郷のメイン館として堂々の実力を誇るものとなっていました。
またシアター11の天井には他の一部MOVIXのメイン館に見られる施工が見られます。
この天井の山形のラインです。これがある事で天井反射が遮られ、特に後方付近で鑑賞する場合に照り返しの影響を抑える事が出来ます。前列になるほどスクリーンに近づく為天井反射は気にならなくなります。少しの対策に見えますが、この広いシアター内で平らに作ればいい天井を手間をかけて映写の為に施工しているのはさりげない大きなこだわりだと思います。
MOVIX三郷のシアター共通の点としてシアター壁面の壁布があります。
壁布はドレープになっています。これにより視覚的に単調になりやすい壁面にアクセントを加えている事、ドレープのひだが重なることで表層的ではありますが吸音効果の向上が見込めます。
またもう一つ、MOVIX三郷で映画を見ていた時に気づいた利点としてドレープのひだの影が映写の向上に寄与しています。シアター11の天井のラインと同様両壁面の照り返しがこのひだの影が発生する事で低減されています。照り返し防止を狙う為のドレープではないと思いますが、思いがけず映像の見やすさに貢献していると思います。
これら個性もありつつ堅実な12シアターが数々の作品を19年間上映してきました。多くのお客が高いクオリティの映画体験を楽しんだと思います。
まとめ
MOVIX三郷は敷地面積を十二分に生かした広々とした映画館で、高いクオリティの12シアターを有していた事が伝わったかと思います。紹介だけでかなりの量になってしまったので次は過去のMOVIX三郷との比較、なぜ閉館となったかについての考察についてまとめます。
中編
後編
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