前回の記事ではMOVIX三郷の施設全体についてまとめました。今回の記事ではMOVIX三郷の初期~中期との比較、MOVIX三郷が閉館となった理由についての考察を書きたいと思います。
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前編
要約記事
過去との比較
なくなった音と光の演出
MOVIX三郷に訪れた方は何となく「ロビーが暗い」と思わなかったでしょうか。姉妹館であるMOVIXさいたまは暗めのロビーで変化する天井の色彩で非日常感を演出していました。
MOVIX三郷オープン時から通っている方はご存じだと思いますが、ロビー上部の壁面にこのような物がありました。
予告や劇場情報を流している大型モニターの両脇に設置された大型LEDモニターです。スマホで撮影した写真なのではっきり見えますが、実際にはグレーの壁にしか見えません。
開業当初はMOVIXのロゴや大型モニターの音声と連動したビジュアライザが表示されていました。このビジュアライザは音楽や効果音の強弱に合わせて変化するもので、音を視覚的に表現しようという試みになっています。閉館前のメッセージの中に当時の様子が写っていました。
1枚目と2枚目を比較すると音の強弱の差でMOVIXの文字に動きがあるのが分かります。この映像を映す前提のロビーの明るさである為、LEDモニターを使用しなくなったことでより暗く感じます。
案内表示器とシアター入口のライティング
入場ゲート左側に案内表示器が設置されています。
こちらも消灯しています。従来は劇場情報や入場案内が表示されていました。MOVIXさいたまでは入場ゲートの上部に表示があり、ゲート正面付近に来ないと見えなかった表示器が独立してロビー側に向いている事で遠くからでも視認出来る様になっています。
MOVIXでは現在音声放送で劇場案内や入場案内を行っているので開業当初、マイクで開場案内をしていた時の名残と言えますね。
案内表示器はシアター入口の上部中央にも設置されています。こちらには上映作品の名前が表示されていました。
コリドーに並ぶシアター入口もライティングされていましたがすべて消灯しています。過去に訪れた際に稼働している際の写真が残っていました。古い写真で画質も荒いですが当時の雰囲気を感じてもらえるかと思います。
青く光るシアター入口が印象的です。入場可能なシアターは赤で点滅し、視覚的にも分かりやすくなっています。ゲート上部の案内表示器も点灯しているのが分かります。
場内のアクセントライト
現在では一部のサイトを除いてほぼ消灯してしまっている三角柱のアクセントライトですが、MOVIX三郷でも消灯してしまっています。
点灯時は青色に輝いていました。単調になりやすい映画館のシアターで音の拡散と視覚的アクセントとなっているこの三角柱はMOVIXの大きな特徴の1つと言えると思います。
これらの演出を行わなくなったのは東日本大震災が境目だと思います。MOVIXに限らず様々な映画館が照明や演出を簡素化する事になっていきます。現在も各映画館、苦しい状況の中でがんばって営業をしていますが、リニューアルや照明のLED化での節電を等を行う中でMOVIX三郷はよくも悪くもほぼ開業当初の姿を残しているのが分かります。
大きく変化したのはフィルムからデジタルへの更新、音響機器更新、特にシアター1のTADがJBLに更新された事でしょうか。
古い写真で画角が異なるので分かりにくいかもしれませんが、サラウンドスピーカーがEVのSL-12 2Vなのが分かります。
更新といえばMOVIXに限らず多くの映画館でスクリーンサイズ拡大がされています。カーテン稼働もないため、下部カーテンから天井左右いっぱいにスクリーンを広げています。映写的には投射の中心位置がやや上がるのがメリットと言えますがスクリーン拡大は迷光の増加、特に前列での鑑賞がしづらい、画と音のマッチングのズレなどのデメリットも発生します。個人的には適切に設計されたシアターであればそもそも最適な視野角や座った時の見具合、スピーカーの位置が最適であるはずなので拡大は否定派だったりします。少数意見であるのは分かってはいますが、MOVIX三郷は従来のスクリーンサイズであった事も劇場選択の理由のひとつでした。
細かい所だとチケットカウンターやコンセ整列のロープやラインもなくなっています。画質が悪いですが昔の写真が残っていました。
2012年、震災後です。チケットカウンターが有人窓口メインなのが時代を感じます。整列用のロープとロビーにも待機用の椅子があるのが分かります。大型LEDモニターも稼働していません。
待合スペースにはテーブルと椅子が多数用意されていました。
2018年頃。ロビーはストア前に長椅子が設置されています。待合スペースは変化なしです。レイトショー後なので照明が消されています。
2021年頃。コロナウイルスが大流行し、緊急事態宣言が解除、警戒しながらも徐々に元の生活が戻ってきた頃です。ロビーは大分殺風景になりました。待合スペースもソーシャルディスタンス確保の為、コンセ前にあった長椅子が設置され、元あったテーブルと椅子は撤去されています。
このころちらほら見られたハコカラが設置されていました。
2024年5月。閉館の告知がされた後になります。ロビーはコロナ以降物を置かず、広々としているのが少々寂しいです。待合スペースにはガチャガチャが設置。長椅子のソーシャルディスタンスの張り紙は撤去されています。
MOVIXの他サイトでは入場ゲートに開場案内モニター、シアター入口に作品とシアターナンバー表記のモニターが設置されています。MOVIX三郷はシアターのスピーカーの更新はしていましたがロビー周りがほぼそのままになっている辺り、上映の品質は保とうとしながらも他に手が回らないのであろう運用の苦しさが見える気がします。
MOVIX三郷の閉館理由を考える
MOVIX三郷は19年という短い期間で閉館となってしまいました。これだけハイグレードな映画館が閉館となった理由は何でしょうか。賃貸契約満了という事ですがなぜ更新とならなかったのか。いくつか要因を考えてみました。
外環三郷西からすぐのアクセス
MOVIX三郷のあるピアラシティは三郷ジャンクション北側に位置する商業施設です。MOVIX三郷のすぐ裏手にも高速道路があるのが見えます。インター出口すぐというのはのMOVIX宇都宮と似た条件ですね。
しかしながらこの三郷ジャンクション周辺は様々な車が行きかう集合地帯であり、毎日のように長い渋滞が発生する場所でもあります。自分が仕事帰りに向かう際、ひどい時は谷和原インター手前から渋滞しており、間に合うか冷や冷やした事が何度もあります。
この高速道路一帯がかなりの渋滞エリアである事に加え、三郷西インター出口も常磐道側と外環側の合流地帯で渋滞、外環側はそもそもがかなりの渋滞、インター出口の信号もそれなりに待ち時間が長いので高速を降りても本線になかなか入れずまた渋滞、と車が進まない場所になります。
車が進まないのはかなりのストレスになるのと、三郷周辺には倉庫や工場が多く、大型トラック等もかなり多く通るので運転が怖いという人もいるようです。せめて三郷西出口がもう少しでもスムーズに進む合流であればよかったかもしれません。
県道29号線
MOVIX三郷から見て高速道路の反対側に草加と千葉の流山を結ぶ県道29号線があります。この県境にあるのが流山橋ですがここも渋滞がひどいエリアになります。Googleで流山橋と検索すると続けて「ひどい」「状況 リアルタイム」などが出てきます。ここから先、三郷を横切る県道29号も渋滞がかなりある区域で昼は草加方面、夜は流山方面が混雑しています。
自分も千葉方面から三郷へ移動した際に予定到着時間を大幅にオーバーし、映画を1本諦めた事があります。外環三郷西と県道29号線、その周辺のピアラシティを囲む道路のほとんどが交通量が多く、渋滞が発生しやすい地域にMOVIX三郷がある事が分かります。
公共交通機関
MOVIX三郷の最寄り駅は三郷駅および新三郷駅、次いで三郷中央駅になりますが、各駅徒歩約40分というなかなかの距離にあります。そこで各駅とピアラシティのアクセスはバスとなりますが新三郷駅、三郷中央駅のバスは本数が少なく三郷駅から移動するようなルートになる事もあります。
またピアラシティ発三郷駅行きの最終バスは21時56分、レイトショーを見ていたら間に合わない時間になります。平日のレイトショーは日中よりもお客が入りやすいはずですが、車を持たない人にとってはそもそも選択肢に入らない事になってしまいます。レイトショー料金狙いのお客からしても厳しいですね。
最終日には最終上映後に間に合う様追加のバスがありました。
周辺を囲むシネコンと利便性
MOVIX三郷周辺の映画館を調べてみます。MOVIX三郷を赤丸、他のシネコンを青丸でチェックしてみましょう。
かなりの数の映画館があるのが分かります。しかもMOVIX三郷を囲うような配置です。こうして見るとMOVIXもかなり多いです。イオンシネマ板橋は三郷周辺からのアクセスを考えた時に見た目より遠回りになるので除外しています。
特徴のある設備や施設で分けてみます。
近接する3館がIMAXレーザーを導入しています。イオンシネマ越谷レイクタウンは4DX、TOHOシネマズ流山おおたかの森はプレミアスクリーン、ユナイテッドシネマテラスモール松戸は4DXに加えスクリーンXも合わせて導入しています。イオンシネマ浦和御園はゴールドクラス、イオンシネマ川口はULTIRAとグランシアターを導入しています。
少し離れますがユナイテッドシネマ浦和もIMAXレーザー、姉妹館のMOVIXさいたまはJBLカスタムメイドスピーカーにドルビーシネマとこの近辺だけでもかなりの充実ぶりです。
特殊な表記のない所だとMOVIX川口とMOVIX亀有は更新されましたがそれぞれEAWとTADのスピーカーが導入されていたことがあるのと、メイン館にMOVIX三郷と同じくJBLのAM6212が導入されています。(/95は90°×50°のカバーレージを表しており、同一型式ですが設置位置も低めの為カバーエリアは異なる可能性があります。)MOVIX柏の葉は過去にEAWを使用していましたがJBLに更新、メイン館がJBLのSRX-715F、シアター9がMartin Audioを現在も使用しています。
TOHOシネマズ西新井はTOHOシネマズ流山おおたかの森と同じくQSCのサウンドマネジメントシステム、BASISが導入されています。
特にIMAXのブランドが強い今、松戸、流山、越谷が近接してIMAXレーザーを持っているのはかなり手ごわいですね。
映画館が併設されている商業施設とアクセス
熱心な映画館マニアであれば例え遠方であってもアクセスが悪くても優れた設備の為に遠征して楽しみますが、普通に映画が見たいお客にとっては大きな商業施設の中で買い物ついでに映画が見れてアクセスが良い所を選びたいのが当然です。同じように商業施設名とアクセスをまとめてみます。
こうして見ると全ての施設が大型商業施設と併設となっている事が分かります。またアクセスも抜群で駅直結、または駅から5~10分程度の施設が多く、最も時間がかかるイオンモール川口とテラスモール松戸も徒歩20分と歩いたとしてもMOVIX三郷の半分で済んでしまします。
また武蔵野線からアクセスしやすい映画館でユナイテッドシネマ浦和、イオンシネマ浦和美園、イオンシネマ越谷レイクタウンがあります。車を持たない人からすれば三郷駅からアクセスするならこの3館があるので余程の理由がないとMOVIX三郷は選択肢に入りません。隣の草加市も中央を東武伊勢崎線が走っており、TOHOシネマズ西新井までのアクセスがすぐで南越谷で乗り換えれば上に挙げた3館にも行きやすいのが分かります。
更につくばエクスプレス線ならば流山おおたかの森、柏の葉キャンパスまで約10分で向かえてしまいます。武蔵野線三郷駅、新三郷駅からの乗り換えも10分~15分なのでレイトショーを見るならば柏の葉まで行ったとしてもピアラシティに向かうより断然ラクになってしまいます。
まとめ~MOVIX三郷閉館の原因~
これらを考えると三郷ジャンクション・三郷西インターすぐの好立地は渋滞でプラス要素がマイナス要素に傾いてしまっている事、公共交通機関が弱い事、周辺に好アクセス・大型商業施設併設の映画館が数多く集中している事が分かります。特に平日の集客では要と言えるレイトショーの上映は電車を使って千葉まで向かった方が行きも帰りもラクという状態です。
映画館としてのクオリティで言えば周辺の劇場の中でも頭一つ抜けていましたが、それがお客を集める理由にならず、閉館という結果になってしまったのでしょう。
今後居抜き物件として新しい映画館が引き継ぐのかは分かりませんが、そもそも映画館としての能力に関係なく場所とアクセスの問題がある以上集客が見込めない懸念があります。ともかくMOVIX三郷が閉館となった事実は残念でなりません。
最後は自分の好きだったシアターの紹介と最終上映について纏めて終わりたいと思います。
後編
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